”メットガラ ドレスをまとった美術館”(映画 The First Monday in May)の感想
今までは、ルンルンと気軽に出かけていた美術館のエキシビション。
これほどまでに大きなプロジェクトで、ひとつの形になるのが奇跡と思えるほど壮大な物語であったとは。
2015年の映画 メットガラ ドレスをまとった美術館(原題 The First Monday in May) を見ました。
映画を見ていると、8か月の準備期間が永遠に終わらないのではないかと思われました…。
それほどのボリュームがある衣服の数々、アートピース、そしてそれらを取り巻く物語としてのコンテンツ。
遂にエキシビションが完成し、オープニング初日のガラディナーで歌手のRihannna リアーナがテーブルに乗って歌ったときには、私がほっと安堵していました。
ビッグプロジェクトとしてのエキシビション
映画ではキュレーターのアンドリューにスポットが当たっていますが、他にも大きな責任を負って仕事をしている幾人ものマネージャーたち、その下で着実に任務を果たす担当者たちがいます。
例えば展示するクチュールドレスを運び、箱から出し、ほつれを直す…そこだけでも緊張の糸がピンと張りつめます。
予算は莫大だし、関わってくるスタッフは美術館の内外、そして国の外へも広がっていきます。 何百人、何千人?
利害がすれ違う他部門のキュレーターとのミーティングをこなし、メディアのインタビューを受けるアンドリューからは強さを感じますが、一方で1枚のドレスの裾のなびき方に何度も手を加える繊細さも失わず。
彼のこの細やかさが、このエキシビションのクオリティを高めているのでしょう。
穏やかさを失わず、最後までこの仕事を完遂したアンドリューに称賛の拍手を送りたい!
ファッションはアートなのかどうか?
映画の中では、ファッションがアートとして認識され始めたのはつい最近という話が何回か出てきます。
私自身は、服に限らず何でも、自分がアートと思ったらアートという考えです。
ただひとつ、”美しいかどうか” という点はボトムラインとしてあるかも。
ある服が
- 高度な技術でできている
- シンプルに、モノとして美しい
- そして、アメリカ版VOGUE誌編集長 アナ・ウィンターの言葉を借りれば
”その美しさによって心を動かされる”
これだけの条件が揃えば、充分にアートではないかなと思いました。
そしてアートとされることで、ため息の出るような艶やかな美しい布、重いほどビーズや刺繍の施された服を美術館というひとつの空間でゆっくり静かに堪能できるのは、嬉しいことです。
エキシビションの監督であるウォン・カーウァイの言葉は短くも的確。
久しぶりに彼の姿を見て、1994年の作品 恋する惑星 を甘酸っぱく思い出した私でした。 あの映画もスタイリッシュで、夢のような映画だった…。
この年のガラパーティでは、1250万ドル(約13億円!)を集めたとのことです。 これは、メトロポリタン美術館の運営資金となります。
アナ・ウィンターは1988年からアメリカ版VOGUE誌を率いていて、メトロポリタン美術館の理事でもあります。
映画 プラダを着た悪魔 での怖い編集長のモデルとされている彼女ですが、これだけの資金を集め、ファッションをアートそのものとして認識されるようにした功績は本当に大きいと思いました。
ガラ当日は、ジョン・ガリアーノやジャンポール・ゴルティエたちデザイナー、ジェニファー・ロペス、シェールなどの姿が見え、その豪華な様子は心躍るものでした。
映画は90分という見やすい長さです。
週末に、平日の夜に、ちょっと非日常に迷い込みたくなったらぜひお勧めです。