15年めの遠回り

2019年-2020年にかけての年末年始は、久しぶりの長めの休暇となりました。

レースのドレスを手洗いしたり、不要品をチャリティへ送ったりしても時間があるのが嬉しくて、久しぶりにKindleを開きました。

しばらく前にダウンロードしていた、光本勇介さんの 著書 ”実験思考 世の中、すべては実験 (NewsPicks Book)” を読んでいます。

いくらイケているサービスでも、タイミングを間違えたら流行るものも流行らない

実験思考 世の中、すべては実験 (NewsPicks Book)

この言葉を読んで、ちょっと甘酸っぱい気持ちになりました。

私は今、パーソナルスタイリストとしてお買い物同行などの仕事をしていますが、この仕事のことを初めて知ったのはもう15年くらい前。 ニューヨークのファッション業界で働いていた時でした。その時は、マンハッタンの高級ショッピングエリアであるマディソン街にあるお店での販売、全米とカナダに向けた卸売の担当、また小さい会社だったので経理もしていました。

パーソナルショッピングという耳慣れない言葉。
その仕事をしている女性を初めて見たのは、たぶん業界紙かファッション雑誌だったと思います。 カリフォルニア在住のアジア系アメリカ人だったかな。

お客様と1対1で、じっくり要望や好みに合わせて服を見繕うなんて、何だか楽しそう、と思いました。
その後、ニューヨークのデパートの最高峰、バーグドルフ・グッドマン Bergdorf Goodman に専用のオフィスがあり、パーソナルショッピングのサービスを提供していることも知りました。

今から考えると、バーグドルフがどれだけ高級なデパートなのかも知らない無邪気な私でした。
そんな私は、専用のフィッティングルームがあるそのオフィスの雰囲気や、広い店内の、有名ブランドや色とりどりの素敵な服がいっぱいある中から ”これは!” と感じるものを探し出して提案する様子を想像し、ワクワクしていました。

しばらく後に、転職の機会がありました。
新たな道としてパーソナルスタイリストにチャレンジするか、それとも、多少なりとも経験を積んだ経理にするか、で迷いました。

結局、経理の方が年齢を重ねても長く続けられる。 
パーソナルショッピングは体力的に辛くなってくるだろうと考えて、経理を選んだのでした。 

経理を選んでからは、私なりに努力し、USCPA(米国公認会計士)の資格を取ったりしながら10年ほど勤めました。

そして再び、環境を変えるチャンスが訪れた時に、数か月間迷いつつ、怖さを感じつつも、ファッションの世界に戻ることにしたのでした。
経理の仕事で恵比寿や虎ノ門の立派なオフィスに通っていた時に、特に努力をしなくても、同僚からコーディネートをしばしば褒めてもらえていたことが背中を押してくれました。

最近、自分はパーソナルスタイリストと名乗る時や、そう書かれた自分の名刺を見る時、そう言えば私はこの職業に15年前に出会ったまま離れて、ようやく戻ってきたのだなぁと思うのです。

あの時、経理ではなくこちらの道に進んでいたらどうなっていたのかな。

アメリカはともかく、日本でお買い物同行というサービスが一般的になってきたのはここ最近のこと。
そうなるずっと前に始めていたら、何か違ったのかしら。

光本さんの言葉がグルグル。

もし日本の環境に早過ぎたら、その時すぐにはお買い物同行は流行らなかったのかも知れない。 
そうだとしても、他に先んじて始めていたら…?

そんな ”たられば” を考えていました。

ただ、経理の仕事は10年続けましたが、それでも自分の心身に馴染んでくる感覚がなかったのに比べると、コーディネートの仕事はやればやるほど自分の中に積み重なって厚くなって行く実感があるし、自分の中の熱意が引き出されるのを感じます。
それを思い出し、この仕事に戻って良かったのだと心を落ち着かせるのです。

こんな私の15年の遠回りですが、もし進路に悩んでいたり、仕事を変えたけれどそれで良かったのかと感じている人に、こんな例もあるよと伝わったら嬉しいです。